可撓伸縮ホース事件

可撓伸縮ホース事件

 

昭和45年1月29日東京高裁(昭和45年(行ツ)第45号)

昭和49年3月19日最高裁第三小法廷判決(審決取消請求事件)

 

概要 上告人は、被上告人の有する登録意匠について、意匠法3条2項に該当するとして無効審判を請求したが、特許庁はこれを認めなかったので、その審決の取消訴訟を求めた事件。

原審:同一分野の関係において登録要件を備えるかどうかは3条1項によるべきであり、3条2項の適用はない。

本判決:3条1項3号に規定する類似意匠であっても、3条2項にも該当することがある。(本件は3条1項にも3条2項にも該当しない)(上告棄却)

争点 ①類似性

②創作性

③意匠法3条1項と3条2項の関係性

対象商品 ①本件登録意匠 ②引用意匠(第146834-1号) ③公知意匠

 

当事者の主張 上告人の主張 特許庁の主張
①本件登録意匠は、引用意匠及び公知意匠に類似する。

 

 

 

 

②本件登録意匠は、意匠法3条2項に該当するから無効である。

①本件登録意匠は、隆起した螺旋状筋条や、低く沈んだ網目模様からなる斜縞の対比と繰り返しにより、看者の視覚を通じて美感を与えるもので、引用意匠及び公知意匠とは全く異なった意匠的効果を有するものであるから、類似するものではない。

②意匠法3条1項は、同一又は類似の物品に関する意匠について創作性のあることを登録要件とし、同条2項は、右以外の物品に関する意匠について創作性のあることを登録要件とした規定であるから、本件登録意匠にかかるホースのように同一分野の物品の関係において意匠が創作性を有するかどうかを判断するには、専ら同条1項によるべく、同条2項を適用する余地はない。

裁判所の判断 <類似性について>

隆起した螺旋状筋条が高く浮き出した無地の斜縞をなし、筋条と筋条との間が低く沈んだ網目模様からなる斜縞をそれぞれ形成し、両者が長手方向に沿って交互に現出し、その対比と繰り返しにより看者の視覚を通じて美感を与えるものであり、引用意匠及び公知の可撓伸縮ホースにいずれとも異なった意匠的効果を有する。原判決が本件登録意匠は原判示の引用意匠に類似するのもではないと判断していることは明らかであり、判定判断は、相当として是認することができる。

<創作性について>

本件登録意匠は、その着想点においても、独創性が認められないものではなく、これを引用意匠等の形状、模様、色彩又はこれらの結合に基づいて当業者が容易に創作することができた意匠であるということはできない。

<意匠法3条1項と3条2項の関係>

原審判決では、同一分野物品の関係において登録要件を備えるかどうかは3条1項によるべきであり、3条2項の適用はない、としていたのに対し本判決では3条1項3号に規定する類似意匠であっても同時に3条2項に規定する創作非容易性を欠く意匠にも該当することがあることを明確にしている。

意匠法3条1項は、意匠権の効力が登録意匠に類似する意匠すなわち登録意匠にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美感を生ぜしめる意匠にも、及ぶものとされている(法23条)ところから、物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とするのに対し、3条2項は、物品の同一又は類似という制限をはずし、社会的に広く知られたモチーフを基準として、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするものであって両者は考え方の基礎を異にする規定であると解される。したがって、同一または類似の物品に関する意匠相互間において、3条1項3号の類似性の判断と、3条2項の創作容易性の判断とは、必ずしも一致するものではなく、類似意匠であって、かつ3条2項の創作が容易な意匠にも当たると認められる場合があると同時に、類似意匠とはいえないが、3条2項の創作容易性は認められるという場合もある。(前者の場合は3条2項かっこ書により「3条1項3号の規定のみを適用して登録を拒絶すれば足りる」ものとされている。)

考察 ・公知意匠に類似する意匠は、不登録事由(3条1項3号)の類否判断と、意匠権侵害訴訟における意匠法23条の類否判断は同じと解されている。

・意匠の類否は物品及び形態の類否によって判断される

・意匠登録に類似する意匠とは、登録意匠に係る物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美感を生ぜしめる意匠である。

・この最高裁判決の趣旨を受けて、平成18年法改正により、登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。(意匠法24条2号)と規定された。