自走式クレーン事件
自走式クレーン事件 |
平成9年1月24日東京地裁判決(平成5年(ワ)第3966号)
平成10年6月18日東京高裁判決(平成9年(ネ)第404号・第2586号)
概要 | 被告の自走式クレーンの製造販売等が、原告の意匠に係る物品「自走式クレーン」の意匠権を侵害するとして、意匠法37条に基づき被告の自走式クレーンの差止・損害賠償を請求し、原判決は原告の請求を一部容認。そして、被告が控訴し原告も附帯控訴。 | |
争点 | 登録意匠の要部の認定 | |
対象商品 | 本件意匠 | 被告の自走式クレーン(イ号(I)) |
当事者の主張 | 原告の主張 | 被告の主張 |
(登録意匠の要部の認定)
A 収縮状態のブームを基端部がキャビンの側方若干後方位置で、エンジンボックスよりも前方斜め上の位置(下部走行体の中央寄りの位置)において、旋回フレームの基台より突設されたブーム支持フレームの上端部に枢着され、左下がり(前下がり)状態でキャビンの下方側部を斜めに横切り、先端部が下部走行体の先端より若干突出して下部走行体に近接した位置で終わるよう配設した点 B 後端部上方にエンジンボックスを搭載した下部走行体と、キャビン、収縮状態のブーム、機器収納ボックス等の各構成要素の組み合わせ配置関係を、本件公報記載のとおり、背の高いキャビンと低い機器収納ボックスの間に収縮状態のブームが正面から観察し得る状態で前下がりに配設し、ブームの枢着部及び機器収納ボックスの後端が下部走行体のエンジンボックスより前方の位置関係に配設した点 |
(登録意匠の要部の認定)
「ブーム基部より前方、キャビン後側部上方附近のブーム上面に、ブームを跨ぐように設置されている、前後の長さ及び上下の高さがいずれもキャビンの略三分の一、上縁最後部がキャビンの天井部とほぼ同じ高さにある、正面視において横瓢箪型の覆いが取り付けられたウインチ」、 「ブーム支持フレーム後端部に配設されている、右側面視においてブーム支持フレーム後端部の左右 に広がり、縦がキャビンの略二分の一、横が車幅よりやや短い横長方形で、前方のキャビン上部とブームの殆どを覆い隠す横長方形の、平面視において略台形状の分厚いカウンターウエイト」、及び、「全高/全長比が〇・三七、全高/全幅比が一・二五で、車高が低く、全体として左右(前後)に伸長した形状」 |
裁判所の判断 | (意匠の類否判断の手法)
意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠が、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である。 (本件意匠の基本的構成態様の捉え方) 自走式クレーンの公知意匠に照らすと、本件意匠のように、収縮状態のブームの基端部がキャビンの側方若干後方位置、エンジンボックスよりも前方斜め上の位置(下部走行体の中央寄りの位置)で、旋回フレームの基台から突設されたブーム支持フレームの上端部に枢着され、ブームが左下がり(前下がり)の状態でキャビンの下方側部を横切り、その先端部が下部走行体の先端より若干突出して下部走行体に近接した位置で終わるように配設した構成は、公知意匠には見られない新規なものと認められること(・・・)、自走式クレーンの用途及び使用態様からして、本件意匠の基本的構成を形成する、キャビン、機器収納ボックス、ブームの各概要的な構成態様や、下部走行体と、キャビン、機器収納ボックス、ブーム相互の配設関係等が、取引者・需要者にとって、購入選択等する場合の重要な要素と考えられる。 (本件意匠の要部) 1 正面視において下部走行体の略中央の位置にあり、下部走行体の全長の二分の一弱で、背面視において右方(前方)下部が前方に突出した横長変形六角形の高い箱体状のキャビンと、高さがキャビンの略三分の一の前後に長い箱体状の機器収納ボックスとの間に、収縮・収納状態のブームがキャビンの下方側部を前下がりの状態で横切り、正面視において中央部下方の一部が機器収納ボックスに隠れるように配設された、キャビン、機器収納ボックス及びブームの構成態様及び配設関係 2 収縮・収納状態のブームの基端部が、キャビンの側方の若干後方位置で、かつ、下部走行体の後端部上方に搭載されたエンジンボックスの前方斜め上の位置で旋回フレームの基台から突設された正面視略直角三角形状のブーム支持フレームの上端部に枢着され、機器収納ボックスとキャビンの間を前下がりの状態で横切るブームの先端部が下部走行体の先端より若干突出して下部走行体に近接した位置で終わる構成態様並びにブーム支持フレーム、ブームとエンジンボックスを含む下部走行体及びキャビンとの配設関係 (本件意匠とイ号意匠の類否判断) 本件意匠とイ号意匠とは右1に認定の構成において一致し、イ号意匠は前記四に認定の本件意匠の要部を具備するものであって、両意匠を全体的に観察した場合、看者に共通の美感を与えるものであり、イ号意匠は本件意匠に類似するものと認められる。 本件意匠とイ号意匠との間には右2に認定の相違点があるが、いずれも本件意匠の要部に関しない部分についてのもの、あるいは細部についてのものであって、右相違点によって、前記共通の美感を凌駕し、別異の美感をもたらすものとは認められない。 |
考察 | ・意匠の基本的構成態様を捉える際は公知意匠にない新規な創作部分と物品の用途・使用態様を特に評価している。 |
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