日本版仮出願制度によるデザイン保護の提案

令和元年意匠法改正が施行され、新しいタイプの意匠の登録例や関連意匠制度を有効活用した事例がいくつか登場し始めてますよね。

デザインを保護するための方策が増えたことは歓迎すべきことですが、さらにもう一歩踏み込んだ知的財産制度の活用方法を思いつきましたのでご紹介させていただきます。

みなさまは、米国における仮出願制度をご存知でしょうか?

「米国仮出願制度とは?」につきまして、簡単にご説明すると次の通りです。

  • 発明について所定の開示資料を提出することにより、出願日を確保することができる(この手続きを「仮出願」を称してます。)
  • 「仮」というのは、それ自体では審査の対象とならないこと、所定期間(後述)中に本出願に切り替えるなどの手続をしないと、放棄されたものと取り扱われることを意味します。
  • 仮出願のメリットは、(1)手持ちの情報だけで速やかに出願が可能な点、(2)初期の費用が安い点にあります。
  • 他方、デメリットとしては、(A)実施可能要件を満たすことが求められる点、(B)本出願まで合わせた総費用では嵩む点にあります。

なお、この米国仮出願制度については米国国内では活用が活発のようですが、日本企業による利用はまだ目立っていないのが現状のようです。この米国仮出願制度を戦略的に活用するために以下のようなポイントがまとめられてます。ちょっと細かい内容で恐縮です。

情報ソース:https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201308/jpaapatent201308_062-069.pdf

 

さて、日本版仮出願制度ですが、「そんな制度ありましたか?」とご質問いただいてしまいそうですが、表向きでは確かに仮出願制度という呼称はないのですが、平成27年改正特許法にて「特許法条約(PLT)」を実施するために特許法38条の2の規定が整備されております。

⇒ つまり、明細書の代わりに、大学の研究論文等(言語不問)を用いても、出願日が認定されるようになりました(≒日本版仮出願制度)

では、この日本版仮出願制度と米国仮出願制度とではどこがどう異なっているのでしょうか?

効果の面38条の2」は現行法下の「仮出願」同等です。但し、研究論文等が記載要件(実施可能要件、サポート要件)を満たさない優先権の効果なしの点も米国仮出願と同様)となります。

このため、日本版仮出願制度は、 通常出願が間に合わない場合の「緊急出願時のオショ」と捉えるべきと考えられてます。

なぜならば、明細書としての記載内容が不十分な場合、後日、補正により十分な記載内容としようとしても新規事項の追加(特許法第17条の2第3項)と判断されるおそれが大きくなるからです。

⇒でも、日本版仮出願制度を使う目的が、将来の意匠への出願変更をするための出願日確保だったら事情が異なりますよね。

ここで、特許出願から意匠出願へ出願変更した上で、最終的に意匠登録された事例として以下の5事例をご紹介させて頂きます。原出願である特許出願の図面が意匠出願で必要となる正投影図法による6面図がそろっていなくても審査をパスできるということが窺えると思います。

このように、日本版仮出願制度を将来の意匠出願への出願変更をするための出願日確保のために活用するという考え方ができると、(1)公開予定日まで時間がない場合にはとりあえずデザイナーが作成した原図レベルの図面を盛り込んで日本版仮出願をしておくというオプションが可能となります。(2)意匠出願戦略を駆使して最初からあらゆる態様の部分意匠や関連意匠としてのバリエーションの意匠として多数の意匠出願をするよりも日本版仮出願をしておけば審査請求期間(出願から3年)までは特許庁に係属しているのでこの間に意匠出願戦略で最も欲張った態様の部分意匠の審査の行方を確認してから必要に応じて出願変更によりより戦略的な部分意匠や関連意匠出願の基礎出願の出し直しなどに有効利用できるのではないかと考えます。

いずれに致しましても、このような日本版仮出願制度をデザイン保護のために活用するに当たって、意匠図面をどのように仕込むが肝要となりますので、当サイトにて意匠図面に関する有用情報を適宜ご参照の上、最適なやり方をご検討いただければと思います。