関連意匠制度の活用戦略

関連意匠制度を有効活用するための戦略を考えてみました。

以下、関連意匠制度の意義、趣旨、要件、効果について説明した後、その活用方法及び留意点について言及することにします。

 

(1)意義

関連意匠制度とは、自己の意匠登録出願のうちから選択した一つの意匠を本意匠として登録するとともに、これに類似する意匠についても、本意匠の出願日から10年が経過する日前まで関連意匠として登録できる制度をいう。

(2)趣旨

先願主義の下、同一出願人であっても同一又は類似の意匠について権利の重複が生じると権利が錯綜して第三者に不測の不利益を招きかねない。

しかし、デザイン開発の現場においては一つのデザインコンセプトからバリエーションの意匠が同時期に創作されるにもかかわらず、先願主義を貫くと意匠権での保護が十分に行き届かなくなるおそれがある。

また、自社製品に共通の一貫したデザインコンセプトを長期間に渡って使い続けることで独自の世界観を築き上げ、ブランド構築を支援すべきとのニーズを踏まえる必要もある。

そこで、令和元年の一部改正において、関連意匠に連鎖する段階的な関連意匠も登録できるようにすることとし、これらを含めた全ての関連意匠について最初に選択した本意匠を「基礎意匠」と定義した上で、当該基礎意匠の関連意匠及び当該関連意匠に連鎖する段階的な関連意匠が複数登録される場合であって、それらの関連意匠相互が類似するときであっても、当該関連意匠同士にも九条一項及び二項の規定が適用されない旨を規定することとした。

(3)要件

関係条文を要件別に整理すると次の通りになる。

(4)効果

要件具備の場合、9条1項又は2項の規定は適用されず、意匠登録され(20条1項)、関連意匠としての意匠権が発生する(23条)。かかる関連意匠の意匠権は、独自の効力を有し(23条本文)、関連意匠の意匠権単独で侵害が成立する。

この他、本意匠と関連意匠とで意匠権の分離移転禁止(22条1項)、専用実施権の設定は、本意匠及びすべての関連意匠の意匠権について同一の者に対して同時に設定する場合に限られる(27条1項但書)。

また、関連意匠の意匠権の存続期間は、その基礎意匠の意匠登録出願の日から二十五年をもって終了する(21条2項)。

要件不具備の場合、10条1項の規定に違反するものとして、拒絶理由(17条)となる。他方、無効理由(48条)には該当しない。

なお、その他の一般的登録要件違反については、それぞれの規定に応じて出願拒絶理由(17条)、登録無効理由(48条)として扱われる。

(5)活用法

①類似関係にあるか否かが疑わしい場合、出願人は積極的に関連意匠制度を使って出願すべきと考える。先願(9条1項又は2項)規定違反は無効理由だが、10条1項の規定違反は、上述の通り、拒絶理由ではあっても、無効理由となっていない。本意匠(基礎意匠)に類似しない意匠について関連意匠の意匠登録がされても一般的登録要件を満たしているので第三者に不測の不利益とならないので無効理由となっていない。よって、仮に類似関係にないのに関連意匠として登録されても出願人に不利益がない。

②関連意匠登録群の一部について秘密意匠としておけば、かかる秘密意匠の意匠権侵害をおそれて第三者がむやみにデザインコンセプトを模倣してくることを効果的に抑止することが期待できる。

③初号機の製品デザインが市場のニーズに応じて徐々に改変した結果、当初共通していたデザイン要素までもが変遷することは経験的に起こりやすいといえる。令和2年4月1日施行の関連意匠制度では、本意匠の出願日から10年に渡って連鎖する関連意匠を段階的に複数、追加的に登録してゆくことができるので猶更である。

このため初号機の製品デザインについて意匠出願する際には、以下の図で示すように、多面的かつ構成要素の異なる複数の単位で全体意匠や部分意匠を出願しておくべきと考える。

ただし、これではコストがかかりすぎてしまうため、もし同時期に当該製品デザインについて特許出願をするならば、かかる特許時出願の実施形態として多面的かつ構成要素の異なる複数の単位での全体意匠や部分意匠の図面を盛り込んでおくことが得策と考える。けだし、後継製品デザインの具体的造形を確認してから必要な図面表現の態様からなる意匠をピックアップすれば無駄がない上、出願変更の出願日遡及効により基礎意匠を後からサブマリンのように産み出せて出願人にとってメリットとなる。

(6)留意点

①本意匠と関連意匠の間に他人の意匠が介在すると、その後は関連意匠を登録できなくなる。

②外国での権利化には10条2項及び8項のような特例がないので、出願国の規定による新規性等の要件が課される。

③連鎖させた場合、存続期間は、当初の本意匠の出願日が起算点となるため、異日出願の場合は関連意匠の存続期間が短くなる。

④基礎意匠が消滅した後でも、関連意匠を登録できるが、該関連意匠が消滅すると、それを本意匠とした(連鎖的)関連意匠は登録できなくなる。

⑤基礎意匠登録、関連意匠出願/登録が消滅すると、それと同一・類似の「自己の意匠」について新規性等の適用除外が受けられなくなる。

以上