「建築物の外観・内装」の意匠図面(第二回)

もうひとつ気になる点があります。
FIG.1とFIG.2をよーく見比べると、下の図のように、ドアの付いている位置が違うんですね。
建物の外壁を構成するブロックに注目すると、FIG.1ではドアの左にあるブロックの列が二段しかないのに対して、FIG.2では三段あります。
どうしてこうなってしまったのかというと、ブロックの横幅のせいです。
平行投影図(FIG.2)では等間隔に表れるブロックの横幅ですが、FIG.1のような二点透視図では、視点から遠くなると尺が縮むという特性があるため、奥のブロックほど横幅が狭くなるんです。
それをうっかり等間隔に描いてしまったために、このようなズレが生じたのでしょう。

ご存知のことと思いますが、意匠出願において図面とは、実質的なクレームにあたる重要な書類です。
この件では上記のようなミスがあっても無事に登録されていますが、「意匠登録されるか」という問題と、「その登録された意匠で、いざというときに望むような権利行使などができるか」ということはまったく別の話。
図面に不備があったり実際の物品(ここでは建築物の外観)と図面とに大きな乖離があったりすれば、権利を行使したい場面で役に立たないということも考えられます。

上記の例は、ありがちな作図上の単純ミスですが、一度意匠出願してしまったらこのような図面のミスの補正が認められるケースはあまり多くありません。
したがって、出願前には図面の厳重なチェックを行い、ミスを未然に防止することが大切です。
特に、「透視投影図法」の図面と「平行投影図法」の図面とが混在する場合、図面間での整合性を確認することは大変重要です。

(1-2)”Mixed-use Building”(US D648036)
次に、また別の例、”Mixed-use Building”(US D648036)の図面についても、全図見てみましょう。

この例では、全三図が「透視投影図法」で描かれていて、先ほどの(1)”Housing Structure”のような 「平行投影図法」の図はありません。
FIG.1とFIG.3は先ほどと同じく「二点透視図」、FIG.2は「一点透視図」です。
実は米国では、図法(どのような図法を用いるか)に関する規定というのは、特に明文化されていません。
したがって、このように透視投影図のみによる出願も可能です(これに対する日本の規定については、次回説明することにします)。

また、この例では、底面図を省略しているとともに、平面図のように建物を上から見下ろす視点の図面も添付されていません。
したがって、この建物の屋根の上がどうなっているかは、添付の図面からは分かりません。
各図から想像するに、屋根は単なる平らな屋根のように見えますし、意匠権で保護を求めるのは非常に個性的な建物周囲の外観(上下を除く四面)のため、上から見た図面は添付していないと思われます。

米国では、意匠を表現するのに十分な数の図の提出されていればよく、提出する図の数に決まりは特に設けられていません。
ちなみに、日本でも最近、意匠を明確に表す十分な数の図の提出があれば、提出する図の数は不問とすると、意匠審査基準が改訂されたばかりですね(2019年5月1日より適用)。