衣装ケース事件

2020/02/23

衣装ケース事件

 

平成6年(ネ)第3464号 意匠権侵害行為差止等請求控訴事件

(東京高裁 平成7年4月13日判決)

 

概要 X(原告・控訴人)は自ら保有する意匠権(本件意匠)に、Yら(被告・被控訴人)実施品イ-へ号が類似するとして、差止め等を請求する訴訟を提起したが、Xの請求はいずれも却下されたため、Xが控訴した事案。(請求認容)
争点 ①意匠の要部の認定

②差異点の評価

対象意匠 本件意匠 被告製品(イ号のみ)
<正面図>     <右側面図>

 

 

<正面図>    <右側面図>

 

当事者の主張 原告・控訴人の主張 被告・被控訴人の主張
①   意匠の類否は、取引者及び需要者において物品の混同、誤認をするおそれがあるほど似ているかを基準とし、意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様に基づき、看者の目につきやすい部分や注意を強く惹く部分がどこかを全体的に親察して行うべきである。

②   本件意匠の看者の目につきやすい部分ないし注意を強く惹く部分は正面部全体である。本件意匠の正面部全体は、各前縁部と密接しながら手掛け用基盤が縦一列に等間隔に3つ配列されており、これがまとまって視野に入るため看者に強い印象を与える。

③   従来の手掛け用基盤は引き出しと一体的に成型されるが、本件意匠の手掛け用基盤は透明な引き出し前面の下半部中央において不透明で凹陥部全体を覆装し、その形態は斬新である。また、手掛け用基盤に配置した縦横のリブは看者の注意を惹くものではなく、本件意匠とイ号ないしハ号意匠は美観を共通にする類似意匠である。

①   控訴人は、本件意匠の手掛け用基板が斬新な形態で視る者に最も強い印象を与える旨主張するが、手掛け用基板を除いて透明な引出しを含む意匠ケースは、本件意匠の出願前において公知であった。

②   控訴人は、本件意匠とイ-ヘ号意匠の手がけ用基板とがほとんど一致していると主張するが、両者の間には多くの相違点が存在するため、本件意匠とイ-ヘ号意匠とは全く美感を異にする。

③   控訴人は、イ号-ヘ号意匠の手掛け用基板に配置された縦横のリブは、視る者の注意を惹く部分ではないと主張するが、リブをどこに配置するかについてはかなりのバリエーションが考えられる。引き出しが透明のときは、リブの配置が物品全体の美感に影響を及ぼす場合がある。イ号ないしヘ号意匠においては、横リブ及び縦リブが引出し前面に凹凸感を付与するのみでなく、手掛け用基板と一体化することにより、シャープな美観を高めているというべきである。

判断 (要部の認定)

①   意匠の類否判断は、両意匠の構成を全体的に観察したうえ、取引者、需要者が最も注意を惹く意匠の構成、すなわち要部がどこであるかを当該物品の性質、目的、用途、使用態様等に基づいて認定し、その要部に現れた意匠の形態が看者に異なった美感を与えるか否かによって判断すべきものである。

②   衣装ケースは独立にあるいは他の家具と並べて使用するか、あるいは押入れの中に据えて使用するものことから、取引者等は本件意匠に係る物品を、正面方向からか、真横若しくは斜め横方向からみることになる。したがって、本件意匠及びイ-ヘ号意匠においては、正面方向と横方面からみた意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様が最も看者の注意を惹く意匠の要部というべきである。

③   意匠の各構成要素がそれぞれ公知意匠であっても、意匠を全体的に観察したとき、それが意匠全体の支配的部分を占め、意匠的まとまりを形成し、看者の注意を最も惹くときは、意匠の要部と認められる。

(差異点の評価)

①   本件意匠とイ-ヘ号意匠とは、四隅部に縦方向の枠を形成し、上端に天板を配し、中央部二段と下端の外縁に横浅を配し、上下方向に数段の箱枠体を形成し、箱枠体の四隅に脚輪を着脱可能に設け、この箱枠体に引き手を除いて透明とした引出しを挿脱可能自在に挿入し、引出しの前面及び後面が外側見えるようにした基本的構成態様及び引出しは手掛け用基盤を除いては透明とし、その面の大部分を平坦面とし、下半部中央部に凹設した凹陥部の全体を覆装するように、上縁両側を隅丸にした横長な長方形状の手掛け用基盤とし、手掛け用基盤には、その形状に倣って縁取りした手掛け孔を透設すると共に、引き出し前面の両側縁は、曲面状の張出部となって箱枠体前面に位置する枠を隠すようにした具体的構成態様において共通する。

②   本件意匠とイ-へ号意匠とは、手掛け用基盤の引出しに対する高さの比率や手掛け用基盤が引出しに占める割合、イ-ヘ号意匠には手掛け用基盤の両側に縦、横のリブが設けられている点等において差異を有するが、等衣装ケースの看者は、ある程度離れた距離から他の家具等との調和を配慮しつつこれを観察し細部まで観察しない。したがって、これらの差異によって、本件意匠とイ-ハ意匠とが異なる美感を生じさせるとは言えない。

考察 ①   意匠の要部認定における公知意匠の評価方法が参考となる。

②   意匠の要部の認定及び類否判断において、透明部の評価が参考となる。