タイムカード事件

タイムカード事件

 

平成7年(行ケ)第33号 審決取消請求事件

(東京高裁平成7年9月26日判決)

 

適用条文 3条1項3号
概要 X(原告)は、Xが出願したタイムカードの意匠(本願意匠)が、引用意匠に類似するため意匠登録を認めないとした審決の取消しを求めた事案である。(請求認容)
争点 ①     物品の形状の評価

②     色彩の評価

対象意匠 本願意匠 引用意匠
<正面図>      <背面図>

<正面図>    <背面図>

当事者の主張 原告の主張 被告の主張
<物品の形状の評価>

①     本願意匠は、通常のタイムカードの倍の大きさの紙に片面印刷したものであるのに対し、引用意匠は1枚のカードの表裏面に印刷されたものである。このように形状が違うのは重要な相違である。意匠の一要素たる「物品の形状」として相違しているのであり、見る者に与える印象が大いに違い、意匠としての類似性を否定するに十分である。

②     事務処理上、必要に応じて展開して使用できるタイムカードは便利であるという背景より、この形状の相違は看過されるべきでない。本願意匠を折り畳んだ状態でのみ引用意匠と対比するのは失当である。

<色彩の評価>

①     表示欄上部に沿って表した暗調子の細幅帯状部について、本願意匠は表面側を青色のべた塗り、裏面側を青色の極く細かい斜め格子状としているのに対し、引用意匠は表面側と裏面側とで青色と赤色を使い分け、どちらもべた塗りとなっている。

②     また、記録欄に表した見出し欄の略全体を暗調子とした2つの区画について、本願意匠は表裏面とも中央部の横長長方形状の白色部分を除いた全面を細かな水玉模様地としているのに対し、引用意匠は表面側を青色のべた塗り、裏面側を赤色のべた塗りとしている。

③     色彩は意匠の構成要素であり、色彩の相違は一般に意匠としての類似性を否定するのが通常であるところ、上記の色彩の相違により、本願意匠と引用意匠とは見る者に与える印象が大きく相違する。

<物品の形状の評価>

①     出願前の周知の形態及び公知意匠との対比において、その意匠が実質的に創作されたところの態様が当該意匠の類否判断上の要部を形成し、その要部の態様が視覚上、看者の注意を引くものでなくてはならない。折り畳んで使用する形状のタイムカードは出願前から公知であるため、この点の創作性は殆ど認められず類否判断上の評価は低い。

②     本願意匠は、出退勤時刻の印字及び保管時には折り畳んで使用される。タイムカードの物品性から、折り畳んだ状態が本願意匠の主たる使用態様であり、展開した状態の使用態様は、本願意匠の一部の使用態様にすぎない。本願意匠の主たる使用態様、すなわち折り畳んだ状態で引用意匠と対比することは妥当である。

<色彩の評価>

①     色彩自体は既に無数存在するため、それ自体創作の余地はない。したがって、意匠全体が1色の色彩で表されている場合に、その色彩を他の色彩に置換することは1つの色彩を選択する程度の創作にすぎない。2色以上の色彩により構成される意匠は、その色彩の違いにより生じる模様が表われることとなり、形状と模様を意匠全体として総合的に観察して類否が判断されるのが一般的である。

②     本願意匠は主たる使用状態においては、引用意匠と同様に表裏面を同時に観察できず、色彩を異にしたことによる意匠的効果はほとんど認められない。したがって、本願意匠は裏面の色彩を表面の色彩と同一の色彩に置換した程度の創作に過ぎず類否判断に与える影響は微少。

判断 物品の形状の評価

①     タイムカードは通常、販売時・使用時において、取引者・需要者に手にとって扱われるものであるから、タイムカードの形状は取引者・需要者の注意を惹く要部であって、類否判断上、看過し得えない。本願意匠は使用時に折り畳んで表裏面を使用する形状である点において、引用意匠の形状と明らかに相違する。

②     ありふれた形状であっても当該意匠の支配的分をしめ、意匠のまとまりを形成して、看者の注意を惹くものであれば意匠の要部足り得る。

色彩の評価

①     意匠においては色彩もその構成要素の一つであり、タイムカードは取引者、需要者に手をとって扱われるため、その表示欄や記録欄に施された色彩も意匠の要部といえる。

②     本願意匠は表示欄について、本願意匠は表面を青色1色、裏面を淡い青色1色、記録欄に表面裏面ともに淡い青色1色を使用し、引用意匠は表示欄、記録欄に表面に青色、裏面に赤色と2色を使用している点で、両意匠には差異がある。かかる差異は濃淡の青色ないし淡い青色に対し、青色と赤色のべた塗りという顕著な差異であり、この差異は看者に異なった美感を与える。

考察 ①     意匠の要部の認定にあたっての、公知意匠の評価方法が参考となる。

②     物品の形態の捉え方が大変興味深い。

③     色彩が類否判断に与える影響は決して少なくないことの示唆。