新しい意匠(建築・内装・画像)に係る意匠権の解釈

「新しい意匠に係る意匠権の権利行使に関する検討課題」(大阪大学大学院法学研究科 准教授 青木 大也 著)という論文が発表されており、気になったので読んでみたところ、以下にピックアップしたポイントが意匠実務に影響しそうなので、紹介させていただく。

 

◆建築物の意匠に係る意匠権侵害:

「設計」行為が実施概念に含まれないと解釈することを前提に論点が明確化されていて参考になった。この場合、間接侵害(38 条1 項4 号・5 号)による規制の余地が考えられる。ただし、CAD による設計においては「プログラム等」に該当するかという疑問が既に指摘されている。また、仮に「プログラム等」に該当するとしても、CAD ファイルが「画像(を表示する機能を有するプログラム等)」に該当すると整理されることがあれば、建築物の意匠の間接侵害の規制対象からは除かれている(37 条2 項参照)。したがって、設計行為そのものを対象とした規制は困難なものと推察されることは今後の実務で留意すべきだと改めて認識した。また、このことは抗弁の主張として、先使用権(29 条)等の適用の可否をめぐっても問題になり得ることから、留意する必要がありそうである。

 

◆内装の意匠に係る意匠権侵害:

「内装業者が行うのは内装の施工等であるところ、それは一から各什器や建築物を製造・建築した上で配置する場合もあれば、既存の建築物に既存の什器を持ち込み、既存の画像を電気通信回線を通じて表示することもあるだろう。これら全ての構成要素について何らかの実施が認められたタイミングから、内装の意匠の実施を認めるということになるのではないだろうか。」という考え方が参考になった。

 

◆画像の意匠に係る意匠権侵害:

「サーバー上で主なプログラムが動き、クライアント側には画像を送るだけのようなシステムであっても、クライアントは画像を使用していると評価できることになろう。また、プログラムの面では、サーバーとクライアントにあるプログラムが協働して画像を表示していると考えられる場面も多いと思われるため、このような場合にどのようにプログラムに関する実施を肯定するのかといった課題も生じることになる。」という考え方が参考になった。

 

※論文は以下のURLよりアクセスできるが、要約と目次のみ、以下に転記する。詳細を知りたい方はオリジナルの論文を参照いただきたい。

https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/4029

 

【要約】

令和元年意匠法改正によって3 つの新しい意匠(建築物の意匠,内装の意匠,画像の意匠)の登録が認められるようになり,これらの登録数についても,引き続き増加している状況である。しかし,新しい意匠に係る意匠権の権利行使の場面に関する議論は十分ではなく,本稿はその権利行使における留意点を探究するものである。

具体的には,各々の新しい意匠の実施概念と侵害時における類否判断について,従来の物品の意匠と異なる点に注目して検討を加えた。また,更に視認性や消尽といった事項についても,物品の意匠との違いを意識しつつ可能な限りで検討を加えた。

 

【目次】

1.はじめに

2.物品の意匠に係る意匠権侵害

3.建築物の意匠に係る意匠権侵害

3.1.はじめに

3.2.建築物の意匠の実施

(1)建築物の建築と設計行為

(2)建築物の使用

(3)建築物の譲渡等

(4)実施の主体

3.3.建築物の意匠の類似―侵害の場面

(1)土地との関係

(2)内部構造の違い

3.4.その他の点

(1)消尽の問題

(2)権利行使の可否

4.内装の意匠に係る意匠権侵害

4.1.はじめに

4.2.内装の意匠の「実施」

4.3.内装の意匠の類似―侵害の場面

(1)要部認定

(2)既存の間取りの影響

4.4.その他の点

5.画像の意匠に係る意匠権侵害

5.1.はじめに

5.2.画像の意匠の実施

(1)画像記録媒体等に係る実施

(2)画像に係る実施

5.3.画像の意匠の類似―侵害の場面

(1)画像を表示する機能を有するプログラム等の影響

(2)画像記録媒体等の影響

(3)複数の画像が記録されている場合

5.4.その他の点

(1)視認性との関係

(2)消尽の問題

6.おわりに