「建築物の外観・内装」の意匠図面(第三回)

第三回:日本における「建築物の外観・内装デザイン」の意匠図面

 

日本における「建築物の外観・内装デザイン」の意匠図面

前回は、建築物の外観・内装デザインがすでに意匠権の保護対象となっている米国での意匠登録例から、「建築物の外観・内装デザイン」における意匠図面の特徴と注意点を考えてみました。
第三回目となる今回は、日本における「建築物の外観・内装デザイン」の意匠図面について解説します。
意匠法改正前の現段階では、まだまだ不明点が多く、今後の議論を待たなければいけない「建築物の外観・内装デザイン」の意匠ですが、今この時点で考えられることを整理しながら、一般的な「意匠図面作成の現場の状況」についても考慮しつつ、日本出願の場合に何を注意すべきか検討していきましょう。

「建築物の外観・内装デザイン」に特有の“透視投影図”

前回、米国の「建築物の外観・内装デザイン」に関する意匠登録例を複数検討した上で、最も特徴的だったのは、やはり「透視投影図法(パース)」を用いている点だと思います。
再び前回までのおさらいになりますが、「透視投影図法(パース)」は、視点から物体までの視線が一点に収束する特徴を持ち、視点から離れたことによる尺の縮みと、実際の物品の形状とを図面上で区別するのがむずかしいため、本質的には意匠図面に向いていない図法と考えられます。

それでも「建築物の外観・内装デザイン」において、米国で「透視投影図法(パース)」が多用されているのはなぜでしょう。

第一回でもお話しましたが、人間の目には手前の物は大きく、遠くの物は小さく見えます。
しかし、例えば消しゴムのような小さな物であれば、視点に最も近い部分と最も遠い部分との距離がせいぜい数センチと小さいため、同じ寸法の二辺の間に極端な差は出ません。
したがって、このような小さな物は、人間の目にはどちらかというと「平行投影図」寄りに見えることになります。

しかし、遠近による寸法差は、対象物が大きくなればなるほど顕著に現れます。
たとえば、高層ビルを路上から見上げた場合を思い出してみてください。
ビルのてっぺんにいくほどビルははっきりと細くすぼまるように見え、その寸法差(より視点に近いビルの横幅と、視点から遠いビルの頂上での横幅の寸法差)は明確に現れるはずです。

つまり、対象物が大きくなるほどわれわれ人間の目には、視点から遠い部分を小さく描く「透視投影図法(パース)」的な見え方になるということです。
そのため、人間と比べて非常に大きい建築物は、「平行投影図法」で描画するよりも「透視投影図法(パース)」で描画する方が、より自然でリアリティが増して見えるのです。
例えば、分譲マンションの販売促進に用いられるチラシには、たいていCG等で作成した完成予想図が掲載されていますが、そのほぼ100%に「透視投影図法(パース)」が用いられているのは、そのためなのです。

したがって、建築分野では「建築物の外観・内装デザイン」を表すために、慣例的に「透視投影図法(パース)」が用いられてきました。
米国の建築物の意匠図面にも「透視投影図法(パース)」が多用されていたのは、こういった理由からです。

これは日本でも同様で、建築分物の外観を表現するために、やはり「透視投影図法(パース)」が用いられています。
そのため、「建築物の外観デザイン・内装デザイン」を意匠登録したいと考えたとき、出願人の手元にある図面のうち建築物の外観や内装が分かる図は透視投影図のみで、六面図などの平行投影図は準備できていない、というケースは大いに考えられます。
そのような場合、日本ではどのように意匠出願すればよいのでしょうか。