「建築物の外観・内装」の意匠図面(第二回)

(2-2)”Hotel Room”(US D641494)
次は、ホテルの部屋の内装の意匠です。とってもこじんまりした部屋ですね(笑)。

この件では、まさに好対照といえるほど、(2-1)とは異なった図面が用いられています。
先ほどの(2-1)との違いが分かりますか?

まず一つは、すべて透視投影図で描かれていた(2-1)と異なり、この件ではすべて平行投影図が用いられているという点です。
視点から遠いほど小さく描かれることがないため、斜視図の奥行きは平行に描かれていますね。
それから、先ほどの(2-1)では壁や天井を取り外してそこにカメラを置いたような視点の図になっていたのに対し、この件ではバッサリと部屋を切り分けた断面図で全図が表されています。
つまり、(2-1)では視点が部屋の外側(もしくは壁位置)にあるのに対して、この(2-2)では、視点は部屋の内部にあることが分かります。
先ほど、物の内側を図面で表現するために内装デザインの意匠図面は工夫が必要だとお話しましたが、工夫の仕方もさまざまですね。

(2-3)”Financial Service Store”(US D736407)
次は、金融サービスを行うオープンカウンター型の店舗という、これまでの例とは大きく異なる意匠です。
(なお、この件では、第一実施形態の図面のみを取り上げます。※米国では複数バリエーションを一出願に含めることが可能
FIG.1~3は、カウンター後方の扉が開いていて、壁面を掘り下げた待合ブースのようなスペースが見えている状態、FIG.4~6は、カウンター後方の扉が閉まった状態を示している図です。

図法に関していえば、FIG.1、FIG.2、FIG.4、FIG.5は透視投影図(全体的には一点透視図的な構図ですが、視点との角度から、カウンターは二点透視図で描かれています)、FIG.3、FIG.6は平行投影図(正投影図)で描かれています。

この件がこれまでの例とどこが大きく異なるかというと、小部屋のような区切られた空間の内装ではなく、オープンな空間の一部のみを切り取った意匠だということです。
先ほどの(2-1)、(2-2)の図面は、壁・天井・床に区切られた空間を表すために、それぞれ図法や表現の仕方は異なるものの、前・後・左・右・上・下という六面図的発想がどちらも色濃く残っていました。
一方、この件ではまるで通路を歩いていて、今からこのカウンターにさしかかろうという視点(FIG.1,4)、カウンターの真正面に立った視点(FIG.3,6)、カウンターの前を通り過ぎてから振り返ったような視点(FIG.2,5)という三つの視点だけで図面が構成されています。
日本の意匠図面では見られないような、非常に変則的でかつ自由な発想の図面ですね。
壁沿いのオープンカウンターという性質上、外観で重要なのは正面と、左右の側面までは至らない円弧状の範囲(下図参照)であって、背面や底面などは目に触れる機会がなく重要度が極端に低いといえます。
そのため、意匠の基本となる六面図な発想から離れて、重要となる視点のみに絞った作図をしているように思います。

建築物の内装・米国編のまとめ

建築物の内装デザインに関する米国の意匠登録例から、図面に関して以下のようなことが分かりました。

・内装デザインは「物品の内側の形態」であることが多く、天井や壁を取り払った表現や断面図を用いるなど、図面の表現は通常の意匠と異なる
・内装デザインの意匠であっても、外観を図面に記載する例もある
・建築物特有の図面表現として、「透視投影図」を用いる例が多い
・「透視投影図」のみを用いて出願している例もある(特に、六面図的表現に透視投影図を用いる場合もある)
・六面図的な発想に捉われず自由な発想で図面化している例もある

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今回は、米国の意匠登録例を参照しながら、「建築物の外観・内装デザイン」における意匠図面の特徴と注意点を検討してみました。
次回は、「日本でも透視投影図のみを用いた意匠出願が可能か」など、日本における「建築物の外観・内装デザイン」の意匠図面について考えてみようと思います。

(つづく)