「建築物の外観・内装」の意匠図面(第二回)

【2】建築物の内装・米国編

ここから先は、建築物の内装デザインの意匠登録例についてみていきましょう。

(2-1)”Automated Teller Machine Enclosure”(US D780937)
まずは、金融機関などのATM(Automated Teller Machine)が設置された小部屋の内装の意匠です。

図面としては、FIG.1は二点透視図からなる斜視図であり、FIG.2からFIG.6は一点透視図からなる五面図(底面図にあたる図は省略)となっています。
つまり、斜視図のみならず、五面図にも「透視投影図法」が用いられているんですね(奥行きがすぼまって見えているのはそのためです)。
外観デザインの意匠で用いた例では、六面図には全て「平行投影図法」が用いられていたので、これは大きな違いです。
一点透視図は、実際にその場に立った際の見え方と近い自然な図であるとともに、「視点と対向する面」だけでなく「視線と平行な面」も一図で一度に示すことができるというメリットがあります(下図参照)。
つまり、一図で五つの面を表示することができるんです。

しかし、このように複数面を一図に表すことができるということは、各図間の整合をとる手間が激増するというデメリットもあります(実際、この件では、FIG.6の窓のあるべき位置に何か四角い物があり、他の図と辻褄が合っていないように見えます)。
また、第一回ですでに述べているように、透視投影図は物品の正確な形状を伝達することがむずかしい図でもあります。

この件で面白いのは、内装の意匠でありながらFIG.1は外観の図面となっていることです(この場合、外観にも意匠権が及ぶのでしょうか)。

また、五面図は、正面図(FIG.2)なら入り口の壁、右側面図(FIG.4)なら右側の壁を取り外して、そこにカメラを置いたかのような視点の画像になっています。
一方で、左側面図(FIG.5)ではATMを、平面図(FIG.6)では天井に設けられたでっぱり(照明器具?)を省略した状態で図面化されていることに注意が必要です。
本来ならば、ATMの背面や照明器具の天井への取り付け面が図面に表れることになるはずですが、そのような部分は人目につくこともないですし、意匠的にそれを表す意味はないため、省略した形で図面化したのでしょう。

このように、建築物の内装デザインの意匠は、外観デザインの意匠と違って物の内側を図面で表現しなければいけない意匠です。
そのため、通常の六面図の発想では、壁や天井などが邪魔になってしまいます。
そこで、壁や天井を取り払うなど、内装デザインならではのひと工夫が図面を描くにあたって必要になるようです。